だれも来る人がいない 山奥の ずっとずっとその奥に
白い花が ひっそりと咲いていました
おい茂る まわりの夏草に 負けないよう か細い茎をまっすぐ天に伸ばし ひとりで 凛と立っていました
そこに 一匹の蜜蜂が ぶーんぶんと羽音を鳴らして やってきました
「やあ お花さん こんにちは ぼくは 仲間にはぐれちゃったんだ
ひとりぼっちで寂しいよ きっと 君も 同じ気持ちかな」と話しかけました
そして「でもボク 仕事しなくちゃ ちょっと 蜜をいただいていいかな」とたずねました
白い花は 黙ったままでした
「そうかお花さんは 蜂の言葉が わからないんだね じゃあ 蜜をいただくよ」
蜂は元気よく せっせせっせと 白い花の蜜を あつめました
「わあー なんておいしい蜜なんだ これまでで一番の味だ」
蜂は 夢中になって 蜜を集めました

「ふうー お花さん 蜜をありがとう さて 僕はこれから 仲間たちを 探さなきゃ じゃあね 」といって飛び立ちました
蜂さんは しばらく 花の上を くるくる回っていましたが、しばらくすると 舞い戻ってきました
そして こう言いました
「どうしても言いたいことがあって… 一人ぼっちで咲いてるお花さんを はじめは寂しそうで かわいそうだな と思っていたんだ だけど これまで出会ったどんなお花さんよりきれいで なにより こんなにおいしい蜜に出会ったこともなくて… うまくは言えないけど お花さんのこと とても かっこよく思えたんだ.. そのことを言いたくて」
白い花は あいわらず だまったままでした
「また 来年も会えたらいいな… ああ.. そうか お花さんは きっとこの山が寒くなるころには もういなくなっちゃうんだね.. お花さん ありがとう 出会えてよかったよ」
そういうと、今度は一直線に 空高くへと 飛んでいきました
その直後でした
お日様から放たれた 銀色のまばゆいプリズムが 白い花に 降りそそぎました
まるで一瞬時が止まったかのように 白い花が 光り輝く絵画になりました
しばらくすると 夏の終わりを予感させる 一陣の涼風が 山を 駆け下ってきました
その風に合わせるように ゆっくりゆっくりと 白い花は 左右に揺れました
それは まるで 高い高い 空に向かって 笑顔で 大きく手を振る 姿のように見えました

◆ みんなみんな違うから、私は私を生きていく。それぞれの場所でそれぞれの生き方。誰がなんといっても、”自分”を生ききりたいものですね。
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