「すべての悩みは対人関係の悩みである」 ー これは心理学者のアドラーの言葉です。
人間 対 人間。当然、その関係性の良し悪しが運命を大きく分けます。お互いを思いやり助け合える関係性を築ければ「人ってありがたいな」と実感できるでしょう。でも、逆にものの考え方や生き方が違う、相性が合わずコミュニケーションの取りづらくなると、次第に反感、不満が募り、極度の人間不信に陥ったりするものです。
中でもパワハラ、いじめなどダイレクトにダメージ受けるケースは、心に深い傷を残しその後の人生に大きな影響を与えます。
「どうして私がこんな仕打ちを受けるのか 」、「私はダメな人間なのか」など、繰り返すマイナスの自問自答が、自分自身の生きる気力を奪い、身も心も動かなくなってしまうこともあります。
でも、その苦しみを大きくしているのは自分自身の考え方ということもあります。そのことに気づくだけでも気持ちはだいぶ楽になります。この記事をごらんになって明日への希望が少しでも湧いてきたら幸いです!
環境の変化をきっかけに自信を失ったケース
今回は、私のカウンセリング事例からお話しさせていただきます。(個人が特定できないよう内容の一部を変えています。)
Yさんは30歳代の真面目なサラリーマン。地元の大学を卒業後、そのまま地元の会社(支店)に就職し営業、総務部門で懸命に頑張り信頼される中堅社員(係長)になっていました。
Yさんは生来の几帳面な性格に加え、上司とも良好なコミュニケーションを保ち、部下への気遣いは忘れないなど支店の良い雰囲気づくりに貢献していました。ただ、周りに気を遣いすぎて神経をすり減らすこともあり、1日が終わると強い疲労感を感じることも多かったようです。
そんな折、東京本社から若手のSさんが支店長として赴任しました。その日からYさんの生活は一変しました。
S支店長はYさんと同じ歳でしたが、会社から将来を嘱望され出世意識が強かったのか、今回の地方転勤について「左遷された」、「こんな地方に何年いることやら」など公然と口にするばかりか、仕事面では完璧を求め、「これじゃダメだ!」と感情的に指導することが多く、支社の雰囲気もピリピリしたものになりました。
ある日、YさんはS支店長に呼ばれこう言われました。「これまで課長に指示出してたけど、アレはちょっとダメな奴なんで、キミに直接指示するから。」、「それと、キミも真面目なのはいいけど、仕事のセンスがないっていうか、このままだと上には上がれないよ。」と言い、書類をポンと無造作に放り投げ、「これ、どこが悪いかわかるよね。急いで手直して。」と言われてしまいました。
以降、Yさんはことあるごとに、S支店長から「これじゃダメ。」、「何度言えばわかるの。」など否定的なことを言われ、時には休日に「明日までに書類仕上げといて。」と電話をもらうこともありました。
「自己否定」のスパイラルに陥るとき
これまで職場全体の良好なコミュニケーションを保とうと自分なりに努力してきたY係長でしたが、初めて接する難しいS支店長に戸惑い、具体的指示も一切もらえない中、自信をなくし徐々に心身共に疲労していきました。
そして、ある朝、体が全く動かなくなり会社に行けなくなってしまい、最終的に療養休暇を取らざるを得なくなりました。
はじめは3か月ゆっくり療養し通院もしながら職場復帰を目指そうとしていたYさんでしたが、あと復帰まで1週間ほどになった頃から、急に「もし復帰して、またダメになったらどうしよう。職場にこんなに迷惑かけたのに・・・もう後がない。」と強いプレッシャーに押しつぶされそうになりました。そうした思いがグルグル頭を駆けめぐり眠れない状態が続き病状が悪化、あと3か月の療養休暇が必要と判断され職場復帰は先延ばしになったのでした。
Yさんはその後のカウンセリングでも、「自分はダメな人間」、「世間に通用しない」、「もう自分の居場所がない」と否定的な言葉を繰り返していました。S支店長との関係性で起きた場面を何度も思い返し、強く自分を否定していたのでした。
“自分は大切な存在” の意味〜 ”確かな自己肯定”へと
ある日Yさんに、そう思いつめてしまう苦しみには共感しつつ、自分自身とS支店長がこれまでしてきた事実だけを挙げて、客観的視点で振り返ってみることをお勧めしました。
例えば、
自分(Yさん)・・・職場の雰囲気づくりのために良好なコミュニケーションに努めてきたこと、自分なりに精一杯仕事に向き合い責任を果たしてきたこと、そうした努力や社員全体の頑張りで職場がうまく回っていたこと。
S支店長・・・支店や社員を大切にすることなく、まず自分の将来を軸に仕事をしていること、支店長としての的確な指示を一切しないこと、そうしたことが支店全体の士気を低下させていること。
こうした事実を挙げるだけで、当然のように、Yさんは組織で働く者として「正しい」ことをしてきたわけで、S支社長が「間違っている」ことがわかります。誰がみてもわかります。
でも、人間は「相手 対 自分」の関係性のみにとらわれて自己評価を下げてしまう傾向があります。特に相手が威圧的な言葉、態度で権限を振りかざした時など、そうした ” 立場を利用しただけの偽りの強さ ” にさえ「力」を感じとってしまい、「自分はダメで弱い人間だ」と思ってしまうのです。
端的に言うと、相手との関係性を考える前に、まず、社会の中で正しいことをしてきた自分は ” 大切な存在 ”であることを知ってほしいのです。
そして、今も、”間違ったことを正しく変えたいと真剣に悩んでいる自分” 。そういう自分が ” 大切な存在 ” なのです。
精神的ダメージを受けている中では、自己肯定感を無理に内側から沸き上がらせようと思っても難しいです。自分を客観的に外から見つめることで確かな自己肯定感は生まれます。
よく人と過去は変えられないといいます。S支店長は変われる人かどうかわかりませんが、今回のケースでは、まず、Yさんが自分を ” 大切な存在 ” と知ることが一番大事なのです。
一方、S支店長について深く考えたり評価する必要はあまりないと思いますが、これまでのS支店長の生き方の中でなんらかの理由があってそうした言動をとっているのかもしれないと想像するくらいでいいと思います。
S支店長に対しては、わからない点は指示を具体的にもらい、自分ができること、あるいは難しいことなどをはっきり伝えるなどして会話の機会を増やすことが大切です。
以上のことは、Yさんへのカウンセリングの中でお話ししてきた一部ですが、Yさんはそうした振り返りを行うことで徐々に本来の自分らしさを取り戻していきました。
Yさんはご自分で「HSP気質」と断言するほどで、日々の気疲れはあるとおっしゃいますが、今は職場復帰をされ元気でご活躍されています。
※ パワハラは大きな社会問題として、その救済についても様々な公的機関をはじめ人権、法律関係団体など対応組織が増えています。他にもセクハラ、モラハラ、マタハラ、リスハラなどなど社会全体の問題が山積しています。どの問題も抱え込むことなく早めに支援を求めることがもっとも重要です。
【 ココロに残る曲 ~ 君は君でいい 前に進もう 】
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